十返舎一九作の戯作本です。
内容は弥次郎兵衛と喜多八の江戸~伊勢~京都・大阪間の道中記です。
現代語訳ではないので多少ハードルは高いですが古典というほど難しくありません。
脚注等も多く二人のやり取りがメインなので慣れれば何とか読み進められると思います。
時間はかかるとは思いますが随所に現代にも残る表現や方言を見ることが出来るので、
現代語訳では味わえない知識のリンクによる喜びを得られると思います。
基本的な構成要素は弥次喜多のやり取り、狂言や笑い話をベースにした事件、
その事件を詠んだ川柳、各宿道中での名所名物の記述、出会った人々の方言や
衣装の記述といった感じです。
てっきり最後まで東海道を旅するのかと思って読み進めていくと、下巻に入って間もない
五編下から伊勢参宮道へ行ってしまいます。まあ二人の旅の目的は伊勢参りなので
それは当然なのですが、近江辺りの話も読んでみたかったのでちょっと残念です。
そういった点から言うと上巻は東海道旅、下巻は伊勢・京都・大阪編と言えます。
下巻を読み終えてから上巻の発端などを読んでいてふと思い出したのが、
喜多八は元は鼻之助という弥次郎兵衛の若衆だったはずなのに旅の途中では
特にそういったこともなく女を取り合ったりしていてなんか変だなということ。
まあ歳が長じてそういう関係ではなくなったのかと勝手に解釈して読み進めていましたが、
よくよく考えてみると発端は八編の後に出されたものなので後付け設定なのかもしれません。
現代で人気が出た漫画やドラマでよくある外伝とかスピンアウトみたいな感じで。
ちなみに初編での弥次郎兵衛は一人住みの能楽者(怠け者)、喜多八は食客(いそうろう)とありますが、
発端では
弥次郎兵衛
元は駿州府中(今の静岡市)の商人。遊郭や衆道にはまって身代を潰す。
若衆である鼻之助(喜多八)と夜逃げして神田八丁堀へ。
周りの勧めで御末奉公上がりの女・おふつと結婚していたが……
喜多八(鼻之助)
駿州江尻(今の静岡市清水区?)の人。
旅役者の花水多羅四郎(はなみづたらしろう)の弟子で陰間。
江戸に来て元服、喜多八と名乗る。奉公先の商人に気に入られ、
それなりに金に融通が利く状態になるものの……
というような感じになっています。大分受ける印象が異なります。
現代のモラル、思考をもって過去を、しかも戯作本の内容をはかるべきではありませんが、
発端の内容は結構酷いです(ノ∀`) おつぼもおふつも不憫でなりません。
もしも発端が最初に書かれていたのならば、旅の途中で触れられたりしたのでしょうが。
八編の最後で弥次喜多は河内屋四郎兵衛に路銀を用立ててもらい木曽路経由で"めでたく帰国したりける"とあり、東海道膝栗毛は終了します。
この後の二人の道中を描いた続膝栗毛があるようですが岩波文庫では出ておらず、
静岡出版で出されていたものも今は入手困難のようです。
いつか機会があったら続編を読んでみたいものです。