カテゴリー: 本・雑誌等

ペンギンは歴史にもクチバシをはさむ / 上田一生

ペンギン会議研究員である上田一生(うえだかずおき)氏によって書かれた人間とペンギンの関係についての通史です。以前読んだペンギンたちの不思議な生活の著者・青柳昌宏氏に三年ほど師事していたことがある方のようです。過去の史料等の写真が多数用いられた、どちらかといえば学術的傾向の読み応えのある本です。

「大航海時代以前のペンギン」「大航海時代に始まる食料・燃料としてのペンギン」
「商業目的により大虐殺される資源としてのペンギン」「博物学の流行・児童文学の成立」
「資源から保護への転換」「ペンギン≠南極」「日本におけるペンギン」
「世界語としてのペンギン」「カワイイを踏まえた上での人間とペンギンのこれからのあり方」
などについて書かれています。

天売島のオロロン鳥、チャンカイ文化のペンギンを象った土器、グアノの収益によるペルーでの奴隷解放、グアノをめぐったチリとの戦争、大航海時代の冒険には欠かせなかった食料としてのペンギン、ヨーロッパにおける博物学の興隆、ハーゲンベックの展示手法、南極探検隊の赤字など新たな知識への足がかりと既得の知識に対して違った視点を持つことが出来る内容だと思います。

ただ、日本では余りしられていないペンギンオイルやその資源的活用のくだりはなかなかショッキングな事実であり、子供や女性には刺激が強すぎるかもしれません。また通史であるために、冒険家や科学者、研究家などなど沢山の人名が羅列的に出てくるいささか読みにくい部分や横道にそれすぎてる部分も多少あります。
現在も尚、海洋汚染や環境変化によって減少傾向にあるペンギンと人間の未来を考えさせられる一冊でした。
 

汗の常識・非常識 / 小川 徳雄

汗をかくことによる体温調節の重要性、アポクリン腺とエクリン腺とアポエクリン腺、
精神性発汗と温熱性発汗と味覚性発汗、汗腺の仕組み、汗の成分、
汗をかけない動物が体温調節の為に行う「パンティング」と「唾液塗布」、汗対策
などについて書かれた本です。

専門的すぎるのか、こちらの理解力が足らないのか、今ひとつわかりにくかったです。
事象の羅列や不明なことに言及している部分が多く、ちょっと読みにくい感じでしたが、
全体的にはためになる本でした。
 

記憶力を強くする / 池谷裕二

大脳生理学を専門とする著者・池谷裕二氏による記憶について書かれた一冊です。
前回読んだ進化しすぎた脳よりも6年ほど前に書かれたものです。
そのため、内容的にはかぶっていたり、古いかなと思ったのですが、
この本は記憶の仕組みとその大部分を司る海馬について書かれており、
「進化しすぎた脳」とは異なる面白さがありました。

同一性を保つために増殖しない神経細胞の中、唯一増殖する海馬の「顆粒細胞」、
「意味記憶」と「エピソード記憶」の違い、記憶を形成する「シナプス可塑性」「増殖」「発芽」、
「LTP」と「LTD」、「記憶」と「ストレス」「夢」の関係などについてわかりやすく書かれています。
神経細胞の使いまわしが連想や創造を産むという点が特に興味深く、読んでいて
興奮を覚えましたε===ヽ(*゚∀゚)ノエウレカ !!
実際に記憶力を高めたい人でもそうでない人でも読んで面白い一冊です。

若い頃に人間機械論的なことや悲観的な考えや考えがループするのは脳内にある種の
溝というか電気というか思考が流れやすいルートが形成されるんじゃないかなどと
考えていましたが、明確ではないにしてもなんとなくの答えを得られた感じです。

ペンギンたちの不思議な生活 / 青柳昌宏

ペンギン研究者であり、NGO「ペンギン基金」主宰者であった青柳昌宏氏による一冊。

「ペンギン」の名がスペイン語「ペングウィーゴ(太っちょ)」から由来したと言われるのも
納得できる愛らしいその体形、海中飛翔のために羽から変化したフリッパー、
「恍惚のディスプレー」、「やかましい挨拶」、「クレイシ」、「礼装」、「ヘッドモルター」などの
ペンギンにまつわるさまざまなことを分かりやすく説明されています。
今までただ可愛いだけと思っていたペンギンたちが過酷な自然環境の中で生き抜く為に
あのような生物に進化したのかが分かります。

『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ―ハイテク海洋動物学への招待 (光文社新書)』も
合わせて読むと面白さが深まって良いと思います。
こちらはどちらかというとデータロガーという機器による研究をメインにした一冊です。